救急車が待っていた
救急車の後ろ扉が開かれ、移動ベッドのそばでレスキュー隊員のリーダーの方から救急車の責任者らしき人への引継ぎがあっていたが、その模様を傍観する余裕はなかった。
登山靴を脱ぐことと、ずぶ濡れになり泥まみれになったズボンも脱ぐように指示された。
そしてベッドに横たわり救急車の中に運ばれた。救急車のリーダーは女性だった。
「背中を見たいのでシャツを脱いでもらえますか?」
背中の傷状態を写真に撮ってもいいかと言われて、よろしくお願いしますと言ったと思う。
「かなりひどい傷ですよ」と写真を見せてくれたが、まじめに見る気分じゃなかった。
リーダーに転落した様子をおぼえているかぎり話したと思う。
救急車の中で①
「山田さん、救急病院が見つかりましたから、これから向かいます」
「え!病院にですか?どこの病院ですか?」
「K病院です」
「・・・わがまま言って申し訳ないんですが、自宅がすぐ近くなので送っていただけませんか?」
「かなり傷を負っていらっしゃいますから、治療や検査をされるべきだと思います」
「いや、明日の仕事が早出で、6時半までに出勤しなくちゃならないんです」
リーダーは困ったような表情をされていた。
自分がたくさんの方に迷惑をかけていながら、救急車の中でもスタッフの方たちを困らせている空気を感じた。
「わかりました。わがまま言ってすみませんでした。あなたの指示にしたがいます。よろしくお願いします」
「ありがとうございます。すぐ出発します」
リーダーは明るい表情になり、スタッフに手短な支持を出されていた。
救急車の中で②
K救急病院は香椎にある。
何度かお世話になっている病院である。
救急車で15分くらいの間だったが、救急車の女性リーダーはいろいろ話しかけてきてくれた。
「ご家族に電話しましょうか?」
「お願いします。あ、病院へ着替えを持ってくるように伝えてもらえないですか」
「わかりました」
救急車の中で見る、脱ぎ捨てた登山靴とザックとズボンを見たら、やはり「ただごとじゃない」事態を招いたんだと実感していた。
やがて、救急車はK病院に着いた。
病院にはすでにベッドが待っていて、手際よく救急車から運び出され、「さんはい!」か「せーの!」か合図の言葉は忘れたが、僕自身みんなに抱えられた僕の無様な体は病院のベッドに移された。
(つづく)