隠岐の島町に咲くキツネノカミソリの現状について書き記しておく。福岡県から移住してきた一年目の感じた他愛もない感想文である。
1.キツネノカミソリについて
山の明るい林の中に自生群生する。花が枯れてから葉をつけ、葉の形も薄く細長く夏前には枯れる。葉が枯れた後、花茎が30~40cm伸び、茎の先端から3~5本に枝分かれし、7月、8月頃にそれぞれの先端に橙の花が上向きにつく。花びらは6枚で斜めに開き、先がやや反り返る。雄しべと雌しべは花びらとほぼ同じ長さである。この花びらから長い雄しべと雌しべが突き出ているのがオオキツネノカミソリである。キツネノカミソリの変種である。花びらもひとまわりキツネノカミソリよりも大きい。また、葉の形や花と葉を別々に出すところや有毒植物である点はヒガンバナと共通するが、花びらの形や花を出す時季は異なる。ちなみに名前の由来は薄暗い森陰に突如現れる「狐火」のようだと、そして葉が「剃刀」に似ていることによるらしい。オオキツネノカミソリと命名したのは牧野富太郎らしい。と、「山野草図鑑」等に書かれているが、隠岐島(島後のキツネノカミソリしか見ていないが)の自生群生地は山というより、国道沿い県道沿い、民家の庭先、空き地などで見られることが特徴である。いや、僕自身がキツネノカミソリやオオキツネノカミソリにそこまで詳しいわけではないので、今後も隠岐島でのキツネノカミソリを観察していくつもりであるが、2024年の夏の生息の様子についてレポートしておきたい。
2.これま見てきたキツネノカミソリ
ネットで「キツネノカミソリ」「福岡県」で検索すると、糸島市井原山のオオキツネノカミソリがどどんと出てくる。僕は2014年から低山歩きはしていたが、道端に咲く四季折々の草花など全く興味関心がなかった。「せっかく野山を歩きながら季節の花々を見ないのはもったいないですよ」とか言われながらも、山道を歩くこと、山頂をめざすことだけをつづけてきていた。最初に好きになった花はカノコソウという花だった。この小さなカノコソウが好きになったことは大きかった。それ以後自分の好きな花を明確に意識するようになった。
オオキツネノカミソリを目的に井原山の麓までいったのは2019年だから、わずか5年前のこと。登山アプリYAMAPではさまざまな山野草が話題になるが、それらは普段の暮らしでは見れない花々たちだ。オオキツネノカミソリも花そんな花だった。佐賀県武雄市にある八幡岳、長崎県の多良岳、福岡県と大分県の境の釈迦岳、熊本県の菊池渓谷などで観察してきた。普通の橙色の群生にすぎないのだが、見ない人は一生見ないだろうし、好きな人は毎年でもその季節がくると、井原山、八幡岳、釈迦岳、多良岳などにオオキツネノカミソリが見たいだけのために行くであろう。
3.島後のキツネノカミソリ
隠岐島に移住してきて一年がたった。福岡で好きだったカノコソウもナンジャモンジャの花も見ることが出来た。福岡では見ることがなかった花々にもたくさん出会った。カタクリの花(3月)トカゲ岩のてっぺんで見たイワカガミ(4月5月)、隠岐石南花園で見たセッコク(5月)の白い花。大好きになってしまった。カワセミやヤマドリと遭遇するのも感動的だったが、イワカガミのピンクとセッコクの好きと透るような白は忘れられない。
さて、本題のキツネノカミソリについて述べる。島後ではキツネノカミソリはあまり認知されていないような気がする。その理由は山に入らなくても、山を登らなくても、国道485号線沿いに、県道44号線沿いに、春日神社の境内に普通に咲いている花だからだと思う。ヒガンバナは認知度高く、田んぼの畦を赤く染めているから知られているが、キツネノカミソリは道脇に群生していても、車で通る人たちがわざわざ車をとめてまで観察鑑賞するような雰囲気ではない。
キツネノカミソリは自生群生するのが自然なので、今のままを維持していくしかないと思うが、最低でも文芸隠岐の読者にはその花の存在をしってもらいたいというのが、このレポートの趣旨である。「知る」と「知らない」、「気づく」と「気づかない」では大きな違いがある。ジオパーク的なものを大切にするように、隠岐島に自生群生している隠岐キツネノカミソリにもなんらかの保護と鑑賞地帯ができたらと思っている。今年の僕のキツネノカミソリに気づいたのが7月下旬だった。そのあと写真撮影にいったときにはもう花が枯れ始めていた。五箇からの44号線沿いにはかなりのキツネノカミソリを確認できた。いちばん群生が広く感じたのは大津久の入り口界隈だった。その後、布施の春日神社境内にもたくさんの群生を見た。来年は、もう少し林道を細かく走ってみてキツネノカミソリ群生地を確認できたらと願っている。
4.追記(島前のオオキツネノカミソリ)
ネットで調べたら、島後の海苔田鼻遊歩道や隠岐の島リゾートアイランド近くにもキツネノカミソリが咲いているらしい。
また、島前では西ノ島町(小向、美田尻、高崎山)、海士町(日ノ津)、知夫村(赤禿山)で確認されているというブログ(2016年)があった。知夫村の赤禿山の山頂付近や麓だけがオオキツネノカミソリだと書かれていた。8年前のブログ記事だが、島後同様に放置されていたら島前にもキツネノカミソリやオオキツネノカミソリがあることがわかったので、来年の夏には確かめに行きたいと考えている次第である。
※「文芸隠岐30号」に投稿した「島後の狐の剃刀」は上の内容と大きく変わっている。原稿用紙に書いて提出したので原文が手元にない。来年3月に発行されてから読み比べてみたいと考えている。